研究概要

研究概要

社会が高度に情報化し,さらにロボット化してゆく流れが起きつつあります.ロボットが日常生活の中に入る時,ロボットはどのように人々とかかわり合い,どんな働きをすべきかを明らかにすることが重要な学術的課 題となります.ロボット工学分野での研究から,ロボットは,人々の位置や行動を認識し,擬人的な身振りを交えて人々に話しかけ,個人を識別して相手に応じて適応的に会話内容を変える,といった人と関わる ための基礎的な機能を既に持ち始め,今後それらの機能をどう拡張し,どのような関わり合いの中でどう生かすか,その将来の可能性を試すべき時期が来ているのです.


他方,認知科学や学習科学の研究からは,人が他人と協調的に活動することや,自分自身の思考や行動に対して内省することで,より創造的で知的な成果が生 まれることが明らかになりつつあります.しかしこの内省や協調は,人が経験を通して獲得するスキルであり,人なら誰でも生まれつきうまくできるというもの ではありません.高度に知的で創造的な協調活動が起きるためには,普段内的に起きる認知過程を意識的に外化し,その外化対象を編集しやすい状況に置くなど 一定の条件が必要なこともわかってきました.ロボットは,これらの条件が満たされる環境を提供することによって,積極的に人の協調的認知過程の質を上げる 役割を果たすことが期待できます.このような役割は,同時に相互作用するロボットを賢くする可能性も持っているのです.


symbiosis


本領域で提案する人ロボット共生学では,ロボットが日常生活の中に入る未来社会を,人々とロボットが信頼関係を作り,そのうえで互いに学びあえるようにな るという相利共生の状態としてとらえています.ロボットは,従来の「人を模した相互作用対象」という限られた役割を超え,人間社会の中で,高度に知的で創 造的な協調活動を誘発し,人々の間の相互作用の質を向上させる新たな役割を担います.そして,「他者」としてのロボットを介することで,自分自身と,ある いは他人とのやり取りを今までよりもスムーズにし,人間の相互理解がこれまでより格段に進む未来社会に向けた新たな学術領域を提案していきます.


overview


本領域では,ロボットに関わる工学に加えて,認知科学,学習科学の研究を融合させながら,人と関わるためのロボットシステム(システムの協創),人とロ ボットの関係に認知科学(関係の協創),この両者を基盤としてのロボットを活用した学習科学(知恵の協創)の3つの研究に取り組んでいきます.これら3つ の研究を連携させ,その具体的な目標として,「人々と関係を築き,互いに学び合い,人々の相互作用の質を高め,人々の生きがいの一つとなることができるロ ボットの実現」を目指し,実証実験を企画し,各分野の知見を結集させていきます.システムの協創の中から,実証実験が可能となるロボットシステムを準備 し,開発したシステムを用いて認知科学的に人間とロボットの関係を理解していきます.これらの成果を有機的に活用し,ロボットの擬人的な存在感を用いて, ロボットが学びの場を誘発し,ロボット自身も学ぶメカニズム実践的に解明する新しい学習科学研究を進めていきます.


各研究項目については,以下の研究計画に沿って,推進していきます.


研究項目A01 システムの協創

ロボットのハードウェアはすでに研究開発が進み,人間型ロボットやアンドロイドなど高い表現能力を持つものが実現されつつあります.現在の研究対象は, より高次の認識・行動機能へと移ってきており,雑音環境での音声認識や,言語理解,ジェスチャ認識のための画像処理,生活環境内での物体マニピューレー ションなど多岐にわたり活発に研究されています.本提案では,他プロジェクトでも研究が進む要素技術よりも,むしろ,人間と生活空間をともにして長期的に 行動するという「共生状態」の実現のために必要な,以下の要素技術を主に研究し,5 年後には,生活空間を共有することができるロボットの実現を目指します.

  • 人と自然な関わりを実現するために,存在感や自然さを感じさせるような,ロボットの制御手法
  • 移動するロボットの周囲の安全性認識や,周囲の人の対話意図認識といった,ユビキタス行動認識
  • 機械学習手法,統計的生成モデルを利用した対話戦略・行動計画手法


音声認識など,本研究を進めるにあたって必要となる関連技術要素は,むしろ複数ロボットの会話同時遠隔操作などの代替技術を当面は用い,将来的な技術的な成熟を待って,統合する方針で研究を進めていきます.


研究項目A02 関係の協創

他のロボット工学と異なり,完全にモデル化されていない人間を相手にする相互作用の研究では,人とロボットの関係を認知科学的に理解する必要があります. 一方,ロボットそのものも,人間理解を目指す認知科学に有用なテストベットとなります.A01 で実現される共生型ロボットを用いて,認知科学実験を行い,ロボットを用いた新しい認知科学の体系とロボット設計論を明らかにしていきます.ロボットと人 々との信頼関係構築や,ロボットを媒介とした人々の間の信頼関係の構築といった,信頼関係の協創に関わる以下の研究を進めていきます.

  • 人間-ロボット相互の随伴性の数理的モデルの構築
  • ロボットとの信頼関係,ロボットを媒介とした人間同士の信頼関係に関する認知モデル
  • 人々と信頼関係を作るために,多様なモダリティを用いる人ロボット相互作用の技術


研究項目A03 知恵の協創

従来の学習科学では,コンピュータは電子化された知識を蓄積するためのツールとして,主に静的な役割が注目された.共生型ロボットがもたらすリアリティと 会話能力は,人と人との情報交換のアクティブな媒介者としての新しい役割につながる可能性を持っています.すなわち,ロボットが,社会の中で,人々の間で 知恵を協創するための新たなツールとなりうるのです.A01 で実現されるロボットと,A02 で見いだされる信頼関係構築の知見をもとに,ロボットを媒介として人々が知恵を協創する社会に向けて,主に以下の研究に取り組んでいきます.

  • 「聞き手」として,思考の言語化を促し,記録・再生することで内省過程を支援する「考え」の外化による,共生型ロボットを用いた日常生活のなかでの自己学習支援システムの構築と有効性の検討
  • ロボットによる「考え」の外化を拡張し,ロボットの背後にネットワーク化した知識データベースを構築して,集団の知識や専門的な知識を共有する技術,協調過程の活性化の技術の実現
  • 人との協調過程に参加して得た知識を次の協調過程に活用する「自己学習能力」を共生型ロボットに実現するための技術開発

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